年金は働いたらもらえなくなるの?障害をお持ちの方が就労した場合の年金について
短時間労働者の社会保険適用拡大で障害者特例と長期加入者特例はどうなる?
就労しているご相談者の方よりご質問をいただきました。
障害厚生年金3級を受給しながらパートで働いています。厚生年金に加入はしていません。今回の短時間労働者の社会保険適用拡大に伴い、障害者特例や長期加入者特例で特別支給の老齢厚生年金を受給している人が、短時間労働者として被保険者資格を取得した場合、定額部分が支給されている特別支給の老齢厚生年金はどうなるのでしょうか。働いたら年金が支給されなくなると、パートは辞めた方がいいと思っています。
今回は障害者特例と長期加入者特例に絞ってお話をしたいと思います。
障害者特例や長期加入者特例はどのような特例なの?
障害者特例について、まずおさえておきたいと思います。障害者特例や長期加入者特例(いわゆる44特例)は、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受けている方が、定額部分の支給開始年齢到達前に障害の状態(3級以上の障害状態)になった場合や、528か月(44年)以上、厚生年金保険に加入していて、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受けている方が、定額部分の支給開始年齢到達前(65歳未満)に、受給者の請求によって、翌月分から報酬比例部分に加えて定額部分も受け取れるというものです。
【これは知っとこ!】
障害者特例や長期加入者特例による年金は障害厚生年金ではなく、”定額部分がついた特別支給の老齢厚生年金”のことです。
特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分) を受けている方が、定額部分の支給開始 年齢到達前に障害の状態になったとき
障害者特例や44特例で老齢年金が支給されている方は、定額部分が加算され、65歳から支給される本則上の老齢年金とほぼ同額の年金が支給されます。下の図のように、2階部分だけでなく、1階の土台部分も含めて支給されるというイメージです。この障害者特例および44特例は別名”退職時特例”と言われていて、厚生年金に加入していないことが要件となっていました。退職時特例が認められると、報酬比例部分を受けられる年齢(65歳未満)でも、事実上、本則上の”一人前の老齢年金”が支給され、障害をお持ちの方や、長きに渡って会社員勤めされてきた方への功労的な意味合いから、長期間厚生年金へ加入をされていた方にとってはありがたい年金制度です。加えて、厚生年金加入期間が20年以上あり、65歳未満の一定の配偶者がいる場合は、定額部分に合わせて加給年金が加算されます。配偶者加給年金は 388,900円(昭和18年4月2日以後生まれの場合。令和4年度年金額)です。
報酬比例部分 2階部分 | ⇒ | 報酬比例部分 2階部分 |
定額部分 1階の土台部分 |
【障害者特例や長期加入者特例により1階の土台部分=定額部分も支給されるようになる。】
今回の改正で短時間労働者として厚生年金に加入した場合、障害者特例による特別支給の老齢厚生年金はどうなるの?
前置きが長くなりましたが、今回の改正では、特別支給の老齢厚生年金の定額部分を支給停止しない経過措置が設けられており、障害者特例や長期加入者特例(44特例)で老齢厚生年金を受給している65歳未満の方が、”短時間労働者として”厚生年金保険に加入することとなった場合であっても、「障害者・長期加入者特例に係る老齢厚生年金在職支給停止一部解除届」を提出することで、従前どおり引き続き年金の定額部分を受給することができます。
詳しい要件は、被用者保険の適用拡大に伴う障害者・長期加入者特例に該当する老齢厚生年金の支給停止に関する経過措置をチェックしてみましょう。
日本年金機構HP:被用者保険の適用拡大に伴う 障害者・長期加入者特例に該当する 老齢厚生年金の支給停止に関する経過
65歳以降の年金の受給選択に関して
支給事由が異なる2つ以上の年金の権利を有する場合、次の3つの組み合わせが可能となります。
①老齢厚生年金+(配偶者加算)+老齢基礎年金
②老齢厚生年金+(配偶者加算)+障害基礎年金
③障害厚生年金+(配偶者加算)+障害基礎年金
前提要件として、65歳までに障害基礎年金1級2級に該当された場合は、上記の組み合わせで受給選択が可能です。また受給の選択は、将来に向かっていつでも変更できます。
受給選択に当たっては、金額の対比だけではなく、課税対象となるか否かを考慮して選択する必要があります。どのような組み合わせがもっともよいのか、市役所の課税課で税金の額や保険料の額などを試算してもらい、65歳以降はどの年金を選択するのが一番よいか、年金事務所で相談されることをお勧めします。
改正による年金制度の経過措置なども走り、複雑になる年金制度ですが、法律を正しく理解してご自身が納得される選択ができるようにしたいでものです。