1年3か月がかりで精神障害による労災申請が認定決定
パワハラと長時間労働による精神疾患発症による労災申請
精神疾患による労災請求が令和6年3月27日付で無事支給決定されたと監督署より連絡をいただきました。
令和4年12月に労災申請をして1年3か月がかりで認められました。
ご相談者様は平成30年2月末に会社を退職。「やっぱり労災だと思う。精神疾患が全くよくならない。ずっとモヤモヤしている。」という思いをお電話で吐露され、当事務所に令和3年12月にご相談に来られました。
精神疾患の労災が認められるまでの道のりとハードルの高さ
今回大変だったことは、
・請求人(ご相談者様)が既往症として精神疾患(統合失調感情障害)を発症しており、かつ障害基礎年金2級を受給中であった為、労災による精神疾患発症を立証することの壁が厚かった。平成20年以降に精神疾患をすでに発症しており過去入院歴も複数回あった。
・障害年金の精神疾患初診日と労災による発病日の起算日の考え方の違い、同一傷病(統合失調感情障害)における労災と障害年金の法的根拠の違い(再発ではなく新たに発症した傷病であるとの労災保険法上の立証と障害年金との違い)を鑑みながら請求する必要があった。
上記2点の課題から慎重に請求を進める必要があり、労災認定のハードルは大変高いものでした。調査途中の監督署による聞き取りでは、ご相談者様に同席して6時間を超える調査が複数回ありました。ご相談者様が統合失調感情障害のため途中入院されるなど、ヒアリング当初から仕事の内容やパワハラの事実を整理していくことは大変な作業でしたが、諦めることなく「Aさんの尊厳回復、名誉回復のためにがんばりましょう。」と、ご相談者様を都度励ましながら進めていきました。監督署による調査中であった令和5年9月には「心理的負荷による精神障害の認定基準」の改正があり、当該改正が考慮され認められた初のケースとなりました。
障害年金の専門家としての経験が活きた今回の事案
既に発症している精神疾患がある被災者の労災による精神疾患発症の機序を立証できたことは、障害年金の専門家として精神障害案件をやってきた経験が強く活かされたと感じます。ご相談者様は本当に絶望の中よく生きてこられ、無事支給決定されたことに大変安堵しておられました。休業補償給付と療養補償給付は時効2年のため給付されない期間があったものの、令和2年以降の補償に関しては遡及され、休業補償給付と療養補償給付についてまとまった補償を受けることができました。労災認定による所得補償が受けられることはもちろんのこと、それ以上にAさんの尊厳回復、名誉回復がなされたことが何よりうれしく思います。
精神疾患による労災請求をするにはそれ相当な時間を要する
精神疾患による労災申請が増加しているなか、障害年金の専門家である社会保険労務士が精神疾患による労災請求に対応し、仕事が原因で精神疾患を発症した労働者の迅速な保護に目を向けていくことはますます重要であると感じます。
精神疾患による労災申請は、ご相談者様のヒアリングから入念にハラスメントや長時間労働に係る事実と心理的負荷による精神障害の認定基準に当てはまる事実の洗い出しを行う必要があり、監督署へ労災申請するにはそれ相当な時間をかけなければ簡単に認められることはありません。
ハラスメントや長時間労働でメンタル疾患になってしまったかもと思われる場合は、残業記録や給与明細、いつどんな時に誰にどんなハラスメントを受けたか事実につながる物的証拠も可能な限り保存しておくことが重要となります。そして、一人で悩まず信頼できる専門家へ早めのご相談をすることはとても重要です。
◆厚生労働省HP:心理的負荷による精神障害の
労災認定基準を改正しました