新ストップ!過労死全国ニュース第11号~過労死・過労疾病防止啓発授業という草の根運動をとおして~
過労死・過労疾病防止啓発授業という草の根運動をとおして
兵庫過労死を考える家族の会・社会保険労務士 中野 祥子
啓発授業を2017年からさせていただき、今年で5年目となります。夫が長時間労働による急性大動脈解離で倒れ、自力で再審査請求をして棄却をひっくり返した当事者として、労災申請から認定されるまでの「苦労」という言葉では到底言い尽くせないほどの苦しみ、辛さ、絶望の道のりから、今日にいたる心境、そして、これから社会に出られる学生の皆さんへ「自分の身は自分で守ること」、「法律は弱い者の味方ではなく、知っている者の味方であること」、そのために「労働法を知ろう」、「困った時は1人で悩まず信頼できる人に相談しよう」という展開でお話をさせていただいています。
労災申請が棄却された後、私は産後の体でままならぬ状態のなか、土日は自身が学んだ大学の図書館に行き、法律の本を調べ倒して審査請求、再審査請求に向けて朝の9時から閉館夜9時までひたすら資料作りに埋没する日々を1年半ほど過ごしました。
私自身、「過労死」という言葉は、夫が過重労働で倒れるまでは単なる「言葉」の1つにしか過ぎず、真実味にかけた絵空事でしかありませんでした。その絵空事のような言葉が現実味を帯びて夫が倒れた時にはじめて仕事が間違いなく原因だと確信し、睡眠時間が2、3時間しか取れない状況が続くと人間は精神をきたすか体にくること身をもって知りました。夫は救急車で運ばれ、大学病院で20時間にも及ぶ大手術で一命を取り留めましたが、胸部大動脈は人工弁と人口血管に置換し、腹部の大動脈は今も解離したままです。一生、抗血液凝固剤を服用しなければならない障害者手帳1級の体となったことを授業でお話しています。労災を申請するということは補償のためだけではなく、本人、家族にとっての「名誉回復の作業」であることも学生の皆さんへ伝えています。授業をとおして、若手から日本の労働環境を変えていってほしい、人を大切にする経営者になってほしい、そんな思いのもと弁護士の先生と一緒に啓発授業行脚を続けています。
アンケート結果で、「中野さんの話を聞いて、家族のために働いてくれている両親に感謝したいと思います。」というものをいただき、涙が出ました。学生さんたちの感想をいただく度に、こちらがかえってパワーをもらい、次の授業につながっていることに深く感謝しています。当事者の生の声を届けることが学生さんたちのこころにいちばん響くと感じています。私は夫の労災を通して出逢えたご遺族や弁護士、社会保険労務士の先生たちとこれからも共に考え、過労死がなくなるその日まで闘っていきたいと考えています。
過労死等防止対策推進全国センター